はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

ヒナ田舎へ行く ブログトップ
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ヒナ田舎へ行く 360 [ヒナ田舎へ行く]

ヒナが目覚めて、パーシヴァルが居間に合流した頃、雨の中玄関ドアを叩く音が聞こえた。

真っ先に動いたのはエヴァン。ちょうど窓辺でドアを叩く人物が脇道からやってくるのを見ていたのだ。

その人物とは、もちろんジャスティン。雨だかなんだか知らないが、その程度でヒナに会えないのは我慢できないとばかりにラドフォード館を急襲したのだ。

スペンサーの位置からもそれは確認できていた。せっかくくつろいでいたところを邪魔されるのはひどく腹立たしかったが、ヒナとの約束を思い出して重い腰を上げた。お互い協力し合うと言ったものの、どちらもまだ行動を起こしていない。どちらかが約束を果たせば、もう一方も約束を果たさざるを得ない。というわけで、スペンサーは行動を起こす。

ヒナはスペンサーの了承を得て、子ネコにミルクをあげている最中だった。子ネコは病気でも何でもなく、雨に打たれて少し身体を冷やしただけのようだと、エヴァンが診断を下した。それを証明するように、温かい場所でひと眠りした子ネコは元気よくミルクを飲んでいる。飲み終わったらヒナとカイルで、ほかのネコ達のいる温室に連れて行くことになっていた。

「誰か来たみたいですね」ダンは首を伸ばして、戸口に目を向ける。

「スペンサーに任せておけばいい」ブルーノは言い、ダンの関心を自分に戻す。

「こんな雨の日に誰でしょうね?」ルークはヒナと子ネコを微笑ましげに見ながら、誰に訊くともなしにのんびりと問う。

「郵便かなんかだろう」とブルーノ。

「もしかして、ジェームズから手紙が来たのかもしれない」パーシヴァルはゆうに三人が座れるソファに寝そべっていたが、ありもしない可能性に飛びつき飛び起きた。

「僕、ちょっと見てきましょうか」ダンが言うと、パーシヴァルは期待を込めて目を輝かせた。

ブルーノが引き留める間もなく、ダンは居間を飛び出して行った。すっかり仕事を忘れてお茶の時間を楽しめるほどには、自分の役目を放棄していなかった。

ほどなくして、スペンサーが戻って来た。

「お客様だ」と少々不機嫌な様子を見せる。スペンサーとしては面倒が舞い込んできたのだから当然だ。

「おやおや、お隣さんじゃないか」パーシヴァルが大仰に声をあげれば、ネコとごろごろしていたヒナが奇跡を目の当たりにしたかのようなきらきら顔ですっくと立ち上がる。

目と目が合えば、もうそれは誰にも止められない。

ヒナはジャスティンに向かって猛然と駆け出し、ジャスティンはなりふり構わず両手を広げる。一見滑稽だが、二人とも真剣なのだから、笑えない。

それでも、パーシヴァルはくすくすと笑い、子ネコもみゃーと鳴く。

「わぁーん。ウォーターさーん!」

ヒナがどれだけウォーターズに心を奪われているかを知っているブルーノは、黙って二人が抱き合う様子を眺め、自分もダンとそう出来たらどんなにいいかと考えていた。ヒナのような奔放さがダンにもあればな、とも。

「届いたばかりのチョコレートを持って来たんだ」ジャスティンはヒナの頭をくしゃくしゃとやり(すでに相当くしゃくしゃだが)、みんなに向かって軽く会釈をする。「下に届いているはずだ」

「もしかして、ウェインさんも一緒ですか?」今度はカイルが興奮しきりでジャスティンにまとわりつく。ヒナがジャスティンに飛びついたように、カイルだってウェインに飛びつきたいほど好きなのだ。

「ああ、荷物がいっぱいだったからね」ジャスティンが答えるが早いか、カイルは全力で駆けて行った。

ブルーノも席を立って部屋を出る。戻ってこないダンとエヴァンがキッチンにいるのは間違いない。ウェインも加わって、ひとのキッチンで何をしているのやら。

ダン一人なら何をしてもいいが、余所者に自分の場所をいじくりまわされたくない。

ブルーノはキッチンに急いだ。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 361 [ヒナ田舎へ行く]

雨に打たれてまでヒナに会いに来たジャスティンはすっかり冷え切っていた。

けれども少しでもヒナと二人きりになりたいがため、熱い飲み物が運ばれてくるまでのわずかな間に、ヒナと子ネコを仲間のもとへ連れて行くことにした。

子ネコを見た瞬間のジャスティンは、ブルーノやスペンサーとほぼ同様の反応を示した。お喋りをしたくてたまらないヒナは、そんなジャスティンの厳めしい顔には気づかず、昼寝からの出来事を早口で捲し立てた。

結果、ジャスティンには子ネコが救世主ならぬ、救世ネコに見えた。

こんな大チャンスを逃すのは、愚か者のすることだとばかりに、ガタガタ震えながらも、炉端を離れてヒナと二人温室に向かった。二人がこれから何をするのか、火を見るより明らかだ。が、短時間ではそこまでよからぬことは出来まい。

パーシヴァルはあまりの羨ましさに、長い長い溜息を吐いた。

ジェームズもこれくらい情熱的だったらいいのに。ベッドの上でもどこか冷静で、どうやったら火をつけられるのかあれこれ試行錯誤中だ。あとは実践あるのみだが、ジェームズのやつ、僕に帰ってくるなと言う。勝手に帰ったら、お仕置きされてしまうだろうか。ああっ!いっそ、お仕置きして欲しい。

「もぉぉっ!ウェインさんじゃなかった!」カイルが足を踏み鳴らし、憤懣やるかたない様子で戻って来た。

「じゃあ、誰が来たんだ?」と、だいたいの予想はついているスペンサーが訊ねる。

「ロシターさんだよ。いま、ブルーノとやり合ってる。あれ?ウォーターさんはどこ?」

どうやらカイルは、ジャスティンに文句のひとつでも言ってやろうと思っていたようだ。

「ヒナと子ネコを戻しに行きましたよ」ルークが言うと、カイルは拍子抜けした様子でルークの横にちょこんと座った。

「ヒナだけずるい」カイルは顔をくしゃりと歪めて、下唇を突き出した。期待の分だけ落胆も大きい。

かわいそうなカイル。パーシヴァルは同情した。無神経なジャスティンはカイルの繊細な男心を全く理解していない。

「カイル、そうがっかりすることないよ。ウォーターズが戻ってきたら、ウェインを呼ぶように言ってあげるから」

「ほんとですか!」カイルは信じられないとばかりに、興奮気味に両手を口に当てた。

こんなに喜んでもらえるなら、自分がここにいる意味もあるのだろうと、パーシヴァルはちょっぴり得意になる。

「でも……雨の中ウェインさんに来てもらうのって、僕、心配でどうにかなっちゃいそうです」

わお!かわいいじゃないか!

パーシヴァルは思わず身悶えした。こういう思いやりは、大好物なのだ。

「では、今日のところは我慢して、天候が回復したら、いつでも自由に遊びに来れるように僕が許可を出しておくっていうのはどうだい?ウォーターズも、ノーとは言わないはずだよ」

むしろ言わせない。こっちはヒナを人質に取っているのだ、強気でゴーだ。

「く、くろふときょ~う」カイルは顔をくしゃくしゃにして、喜びを露にした。

人助けって、なかなかいいものだ。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 362 [ヒナ田舎へ行く]

自分でも少しやり過ぎだと思う。

ジャスティンはヒナを抱えて温室を出ると、誘導されるがままヒナの部屋に入った。

ヒナが寝起きみたいな格好(実際寝起きだったのだが)で出迎えるから悪いんだと言い訳じみたことを思いつつ、ドアを閉めるなり唇を奪った。

もう、一日だって離れていたくない。どうして自分だけがヒナと離れていなければならないのか、まったく理解できない。あのクソパーシヴァルがヒナの隣の隣の部屋を使っているだと?なぜあいつがここにいるのか、まったくもって理解できない。

ジャスティンはヒナの唇を舌でこじ開け、すばやく舌を滑り込ませた。おやつの前だというのにヒナの中は甘く、誘惑めいていた。数歩進んで、ヒナをベッドに寝かせた。その間も唇を離すような愚かなまねはしなかった。

ヒナは潤んだ瞳でジャスティンを見上げ、あえぐようにして息継ぎをした。

ジャスティンは微笑んで、鼻先を愛おしげにこすり合わせた。「悪さ、していなかったか?」

「してない」ヒナは反射的に答えて、ジャスティンにちゅっとキスをする。ジャスティンの言う悪さとは、もちろんこういうことだ。「ジュスもしてない?」

逆に問われて、ジャスティンは笑った。いったい誰と、こんな事ができる?キスをして、シャツのボタンをはずして柔肌に触れたいと思えるのはヒナだけなのに。

「きゃっ!ジュスの手冷たい」

「ん?ヒナがあったか過ぎるんじゃないのか?」

「そうかも。ネコと寝てたから」

「そうだと思った」

「ヒナがあっためてあげる」そう言ってヒナは、ジャスティンのクラヴァットに手を伸ばした。

ヒナはまごまごしてなかなか結び目をほどけず、結局ジャスティンが自分で胸元を解放した。

二人で、裸で、上掛けの中に潜り込み、後先考えず、コトを始めてしまった。

その頃、居間では――

「ほんと、ブルーノもロシターも大人げないんだから」ダンがぶつくさとこぼしながら、お茶を運んできたところだった。

「ほっとけ、ほっとけ」スペンサーは我関せずといったふうに、ひらひらと手を振る。

「どっちもいい男だけどね」パーシヴァルはもどかしげに爪の先を噛んだ。いくらいい男揃いでも、残念ながら誰にも手を出せない。

「僕はブルーノの方がかっこいいと思うんです」と、カイルが自分の兄を持ち上げる。

「確かに、あの魅力的な青灰色の瞳に見つめられるとたまらないな」

ちなみにブルーノはパーシヴァルを見つめたことなどない。

「でも、ロシターさんも都会ふうで素敵ですよね」

なぜか男談義に花を咲かせるパーシヴァルとカイル。

スペンサーは危機感を覚えつつも、いつまでもダンが働いていることのほうが気がかりだった。今は誰が何と言おうと、休憩中だ。

「そういえば、ヒナはどうしました?ウォーターズさんも」ダンが部屋を見回しながら問う。スペンサーが早く座れとせっつく。

「子ネコをみんなのところへ連れて行きましたよ」ソファと一体化しているルークが言う。

「そうそう。ヒナだけずるいんだから」

「それにしても遅いな」とスペンサー。いちおうは気に掛けているらしい。

「屋敷の中でも案内してるんじゃないかな」パーシヴァルは意味ありげな視線をダンに投げつけた。

ダンはハッとした。

まさかとは思うけど、そのまさかだったりする?

「ちょっと、僕見てきます」ネコのいる前で変なことしてなけりゃいいけど。って、してるに決まってる。

「じゃあ、僕も行こうかな」カイルが腰を浮かせる。

「いえ!カイルはここで待っていてください。ほ、ほら、美味しいチョコレートもありますよ」運んで来たばかりの豪勢なおやつセットを披露する。

「わぁ。ほんとだ」カイルの興味がチョコレートに移る。すとんと腰を落とし、一番に手をつけていいものか、誰ともなしに確認する。

「うん。カイルはここで僕たちと美味しいチョコレートを食べよう」パーシヴァルがダンに早く行きなと、目配せをする。ヒナとジャスティンが何をしているのか、当然見当がついているというわけだ。

ダンはパーシヴァルに感謝の目礼をすると、居間を飛び出した。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 363 [ヒナ田舎へ行く]

温室から戻ったばかりのエヴァンは、廊下の端で袖口に付いたネコの毛を払っていた。

「ああ、エヴァン」ダンが慌てた様子で反対側の廊下の端に現れた。手を振り上げ、大きな声を出す。「いいところに」

いいところにやってきたのは、ダンの方だ。

だが、使用人がお屋敷で大きな声を出すものではない。

「どうしたんです?」戒めを込めて、声を低める。

「ヒナと旦那様を見ませんでした?」

うっかり旦那様などと口にして、危機感はあれど危機管理不足としか言いようがない。たった一言口を滑らせるだけで、どんな結果を招くか、この若い従僕に言い聞かせる必要がある。

「ヒナとウォーターズさんは温室にはいませんよ」温室に寄った形跡はあるものの、長居した様子はなかった。

「あ、ああ、すみません」ダンがあたふたと言う。「じゃあ、ヒナはどこに?」

「きっと、どこかの部屋にしけ込んで――」

「なんですって!」ダンはまさかエヴァンが『しけ込んで』などという粗野な言葉を使うとは思わなかったのだろう。ひどく驚いて声を裏返した。

「いや、なんでもない。部屋に戻ったのでしょう」

「まさかとは思うんですけど、変なコトしてませんよね?」ダンは額の汗を手の甲で拭った。見当がついているからこその冷や汗だ。

「どうでしょうね。あの方は、かなり飢えた状態にありますからね。餌を前に出されて我慢できるかどうか」エヴァンは打つ手なしとばかりに、かぶりを振った。

「むしろ、ヒナが誘ってるかもしれません。どうしたらいいと思います?このままでは大変なことに」ダンは両手を組んで祈るような格好で、エヴァンに詰め寄った。

「まずは、そうだな」エヴァンはポケットから懐中時計を取り出し、ざっと時間を逆算した。「あと一〇分ほどしたら、ヒナの部屋に入ってください。コトが終わっていようが最中だろうが必ずそうするように。わたしはお湯を調達してから部屋に向かいます」

「でも、キッチンにはブルーノがいますよ」ダンがぞっとしたように言う。

「お湯はキッチン以外でも調達できます。が、ロシターもいますし、どうにかなるでしょう。まずはコトの痕跡を消さなければ」そういえば、リネン置き場に替えのシーツが用意してあった。ロシターにはあれを運ばせよう。だが、部屋に直接入るのはダンだけだ。

「ロシターは、そういうのに理解はあるのでしょうか?」ダンが気遣わしげに問う。

理解がないと考えたこともなかった。

「ジェームズ様がクロフト卿の為に見繕った使用人ですよ。この程度のことに理解がなくて仕事が務まりますか?」きっぱりと言い切ってしまえば、ダンも納得するしかない。

「そう、ですよね。とにかく協力して、最悪の事態は避けましょう。ヒナがここを追い出されることにでもなったら困りますもんね」

そんなことにでもなったら、わたしたちは確実に首が飛ぶ。それだけで済めばいいが、ヒナを害するものは誰であろうと無事でいられないだろう。

まさに、ぞっとする話だ。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 364 [ヒナ田舎へ行く]

隣の自分の部屋でじっと息を殺して控えていたダンは、エヴァンの指示通り、きっかり一〇分で部屋に突入した。

もちろん、立場をわきまえこっそりと。

弾むような息遣いと、ヒナのはしゃぎ声がベッドから聞こえた。くすくす笑いも。ヒナと旦那様はいたって堂々とチュッチュやっている。しかもカーテンは開けっ放し!

ひとまずコトは終わったようだけど(やっていないことを期待した僕が愚かだった)、突入のタイミング次第では見たくもない瞬間を目撃していたかもしれない。

こほんと軽く咳払いし、ヒナの着替えとともにベッド脇に立つ。

ヒナは上掛けの中からもぞもぞと這い出てきて、まずい場面を目撃されたとき特有の『しまった顔』をした。

旦那様はあからさまに『何か用か?顔』をしている。おそらくここがバーンズ邸ではないことを忘れているのだ。

ダンはヒナを恨めしげに見ないようにするのに、かなりの意志の力を発揮した。ヒナのせいで旦那様は前後不覚に陥っている。

「すぐにエヴァンが来ます」ダンは慌てず騒がず冷静に告げる。

「何しに?」ヒナは口をすぼめて不思議そうに小首を傾げた。

何しに?この状況、分かってる?僕ひとりでどうにかできるとでも?

ダンは叫び出しそうになったが、自分の立場を忘れるほどは動転していない。

そんなダンの葛藤など微塵も気にかけていないジャスティンは、ヒナについばむようなキスを二度三度、四度するとようやくベッドから出た。ダンは目を伏せ、主人の身体を見ないように務めながら、くしゃくしゃのシャツを拾い上げて手渡した。

「ヒナはそこにいろ」ジャスティンは命じて、何事もなかったかのように衣服をまとい、ようやく自分のしでかしたことに気付く。だが反省などするはずもなく、こうなったのはお前のせいだとばかりにダンを見る。

あまりに理不尽だが、主従関係とはこういうものだ。いちいち腹を立てたりはしない。

そこでようやくエヴァンが姿を現した。ダンと同じく、隣の部屋から音も立てずに。

助かった、と思ったのも束の間。エヴァンが傍に来て耳打ちする。

「表にブルーノがいる。ここはわたしに任せて、ダンは彼を追い払ってください」

「ブルーノが?」ダンは遠慮なしにエヴァンを睨んだ。うまくやってくれるはずでは?

「あなたの姿が見えないのと、わたしがこそこそしているのが気になったのでしょう。さあ、行ってください」

ヒナは心配だったが、エヴァンがうまくやるだろう。だからブルーノの方は僕がうまくやるしかない。

ダンは追い立てられるようにして、ヒナの部屋を出た。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 365 [ヒナ田舎へ行く]

ダンの部屋の前で、ブルーノはしばらくノックをするか、せずにそのまま踏み込むかで悩んでいた。

いきなり踏み込んでダンとエヴァンのイケナイ場面に遭遇したら?いや、こうしてぐずぐずしている間にイケナイことを始めてしまったら?

いやいや。そもそも、ダンとエヴァンでそういうことはありえないだろう?

ブルーノはドアの取っ手に手を掛けた。

ほとんど力を入れてもいないのにドアが勢いよく開いた。つんのめるようにしてぶつかった相手は、ダンだった。

「ブルーノ!」ぶつかられたダンが、両手を突っ張ってブルーノを部屋の外に追い出す。

まるで、中に入られてはまずい何かあるような慌てぶり。

「さっき、エヴァンが部屋に入っていったが」誤魔化される前に、ずばり切り込む。

「エヴァン?ええ、いますよ。ヒナの部屋に」

「ヒナの?そこで何してる?」

「あぁ、のぉ……温室でちょっとあって、着替えを――」やけに歯切れの悪いダン。これではまずい何かがあると白状しているようなものだ。

ブルーノはなおも追及する。「それはダンの役目だろう?どうしてエヴァンがダンの部屋を通ってヒナの部屋に入って世話をしなきゃならん」ヒナが部屋にいるなら二人が妙な事にはならないだろうが、隠し事をされるのは気分が悪い。

「ウォーターズさんも一緒だからです。ヒナの巻き添えで、目も当てられない姿に」

「目も当てられない?」ブルーノは懐疑的な目をダンに向けた。

「毛だらけです。それと、泥だらけ」ダンは顔をしかめた。

ブルーノはぞっとした。毛だらけなのは、ウォーターズやヒナだけではない。屋敷のあちこちが被害を受けたはずだ。いったい誰が後始末をすると?

「それは、いただけないな」ブルーノは同意し、ダンが歩き出したので後を追った。「ヒナを放っておいていいのか?」

「エヴァンが見ていてくれるでしょう」

納得いかないが、ダンがそう言うのなら……。

「居間に戻るのか?」ブルーノは足並みを揃え訊ねる。出来れば、わずかな時間とはいえ、二人で過ごしたい。せっかく鬱陶しいロシターを談話室に押し込んできたことだし。

「どうしましょう。なんだか疲れちゃったので、どこか静かなところで休みたいんですよね」

誘っているように聞こえるのは気のせいだろうか?

「だったら、ヒナの着替えが終わるまで、おれの部屋に来るか?」試しに誘ってみた。

「え……」ダンが戸惑い顔で立ち止まる。

しまった。

「何もしないから安心しろ」

まさか自分がこういうお定まりの言葉を口にするとは思わなかった。

「べ、別にそういうこと考えたわけでは……」ダンは目を伏せぼそぼそと言う。つと、視線を上げ「いいんですか?」と、訊かなくていいことを訊く。

「ああ、適当な時間で部屋に戻ればいい」努めて紳士的な態度で答える。内心、下心いっぱいだったが。

「じゃあ、ちょっと休ませてもらおうかな」ダンはにこりと笑って、廊下の先の部屋を目指した。

やっぱり誘っていたのでは?と、ブルーノは思わずにはいられなかった。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 366 [ヒナ田舎へ行く]

ひとまずブルーノをヒナと旦那様から遠ざけることに成功したけど、この状況はあまりよろしくないのでは?

ダンは廊下を進みながら、ブルーノとブルーノの部屋で二人きりになるリスクを考えていた。

何もしないと言ったブルーノの目は、そうではないことを物語っていた。つまりは、またキスをされてしまうかもしれないということ。されたらきっと困るから、やっぱり、部屋に行っちゃだめだ。

「あの!ブルーノ」ダンはぴたりと足を止めた。振り返って、見上げる。思いがけず近くにいたので、ブルーノの胸に鼻が当たった。

「どうした?」

さりげなく、背中に腕を回された。こっちが飛び込んだのだけど、今は抱き合っている格好になっている。

「えっと、ちょっとそこに座りません?」ダンは後方に向かって腕を伸ばし、適当に指を指した。運良く指の先には長椅子があった。大人の男が二人座るには少々窮屈かもしれないけど、廊下から少し引っ込んでいるので、部屋に行かなくてもここならブルーノを隠していられる。その間にエヴァンが仕事を済ませてくれればいいけど。

「こんな所にか?」案の定、ブルーノは難色を示した。

「ええ、いけませんか?」そう言いながら、なんとかブルーノの抱擁を解こうと身をよじる。

「警戒しているのか?」

こんな状況でよくもそんな。「いえ、別に」ダンは憮然と答えた。

「わかった。座ろう」ブルーノはダンの不機嫌を察知してか、すんなりと折れた。

おかげで更なる試練がダンを襲う。

「ちょっと窮屈ですね」小さな長椅子の座り心地は、見たままのとおりだった。

ダンの右腕とブルーノの左腕がぴたりと寄り添う。

「だから言っただろう。でもまあ、これも悪くないが」ブルーノがほくそ笑む。

ダンは出来るだけ身を縮めて、時間稼ぎの話題を掘り出す。「ところで、ロシターは?」

「談話室で茶でも飲んでいるんじゃないのか」ブルーノが小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

ひとまずロシターをキッチンから追い出すのには成功したようだ。けれども、いったいどうして二人はあんなにも仲が悪いのだろう。

「晩餐、二人分増やすことになりそうですね」ヒナはきっと、旦那様を晩餐に招待するだろう。ここで最も身分の高いクロフト卿も、楽しそうだという理由でヒナに加担するだろう。
となると、誰にもその提案を拒絶できない。たとえ屋敷の管理者であるスペンサーといえども。でも、ヒューなら拒めるのだろうか?表には出ないが、力は持っている。

「冗談!」ブルーノは一笑に付した。とことんロシターが嫌いなようだ。

「でも、ウォーターズさんは雨の中来て、ヒナにひどい目に遭わされて、それでろくに夕食にも招待しなかったとなると、ブルーノたちの評判にかかわりますよ。むしろ、クロフト卿の名に傷が付きます」

「そうなのか?」ブルーノは自分の評判よりも、クロフト卿の評判を気にしているようだ。意外だった。

「ええ、そういうものです」

それきりその話題は打ち切りとなった。

ブルーノが身をかがめて、顔を近づけてきたからだ。

まさか、ここで!?

つづく


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ヒナ田舎へ行く 367 [ヒナ田舎へ行く]

まったく。おれをいったいどういう人間だと思っているんだか。

少し顔を近付けただけで、亀みたいに首を引っ込めて、まるで殴られでもするかのように目をぎゅっと閉じている。

まあ、警戒するほどには意識しているということか。

ブルーノはダンの鼻の頭を指先でつついた。

ダンはパッと目を開けて、鼻を手で隠す。何をするんだ、とでも言いたげだ。

「小さなかさぶたが取れかかってたんだ」

「かさぶた?」ダンはかさぶたという言葉を初めて聞いたような顔をした。

「最後のひとつだったようだな。綺麗に治るといいが」ブルーノはダンに触れた指先にふっと息を吹き掛けた。

「かすり傷なので、きっと元通りになります」荷台から転げ落ちた場面を思い出したのか、ダンは苦笑いを浮かべた。早く忘れてくださいとちらりと視線を寄こす。

「それで?いつまでここに座っているつもりだ?狼の巣に飛び込むのが嫌なら、キッチンでもいいんだが」

「狼だなんて、そういうアレでは……」ダンは顔を赤くして俯いた。

「まあ、いい。下に行こう」ブルーノはきわどい会話を打ち切り、立ち上がった。このままダンに密着したまま話を続けていたら、ろくな事を口にしないだろう。それにダンをからかい過ぎるのは、自分の首を絞めるようなものだ。

ブルーノはダンがかなりの頑固者だということを忘れてはいなかった。焦ってはダメだと、自らに言い聞かせる。

「そうしましょうか」ダンは素直に従った。先を行く形ではなく、今度は後ろをついてくる。

焦ってはダメだと分かっているのに、もどかしい。

「ヒナはウォーターズを晩餐に招待すると思うか?」面倒だが、手間が増えればそのぶん、ダンを独占できる。カイルやロシターといった邪魔者はこの際無視すればいい。

「そう思います。僕も手伝うので、いいと言ってくれません?ねぇ、ブルーノ」ダンが前に回り込んでくる。

甘えた声こそ出さなかったが、お願いされているのは紛れもない事実。なかなか心地いい。

「スペンサーがいいと言えば、いいが――あっ、いや、スペンサーにはおれが言うからダンは手伝いをしてくれたらいい」

あぶないあぶない。ダンをわざわざスペンサーのもとに行かせる馬鹿がどこにいる?

「本当ですか?それでは、お願いしますね」にっこりとして、横に並んだ。

思わず肩を抱き寄せそうになったが、運悪く階段に差し掛かったので、断念せざるを得なかった。

ブルーノは宙に浮いた手を渋々下ろした。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 368 [ヒナ田舎へ行く]

ダンもエヴァンもうまくやったが、ヒナが戻ってこないのをおかしいと思う人間は他にもいる。

カイルは大人たちに囲まれて退屈だったし、一日密着予定のルークは、ヒナが今どこで何をしているのか、当然気掛かりだった。

「ちょっと様子を見てきましょうか?」ルークは時計をちらりと見て、腰を浮かせる。

「そのうち戻ってくるよ」と、訳知りのパーシヴァルはのんびりと言う。

「温室でネコと遊んでるのかな?」とカイル。ルークと一緒に行こうか、ここに留まろうか少し悩む。

ルークの言動に危機感を覚えたのはスペンサー。

もちろんヒナとジャスティンがイケナイことをしているとはまったく想像していないが、伯爵のスパイであるルークを自由に歩き回らせるのは危険だという認識はある。

「俺も一緒に行こう」珍しくキビキビと動く。

カイルはとどまることに決めた。ちょうどパーシヴァルに訊きたいことがあったからだ。

二人が出て行くと、カイルは席を移ってパーシヴァルの隣に座った。

パーシヴァルは、おや?という顔をし、にこりとする。

カイルは意を決するように、ごくりと唾を飲んだ。「僕、クロフト卿に訊きたいことがあるんです。その、ヒナのことで」

「なんだい?」パーシヴァルは優美に眉を上げた。

「ヒナがここへ来た時の話なんですけど、兄たちは忘れちゃってるみたいなんですけど、えっと、ヒナはパーシーはおおおじだって言ってたんです。言ってたっていうか、僕は後からブルーノに聞いたんですけど。パーシーってクロフト卿のことですよね?」カイルは息をつくのも忘れて捲し立てた。

「ヒナがそんなことを?やれやれあの子ったら」

「じゃあ、やっぱり!」

「正確に言うなら、いとこおじなんだけどね。これ内緒だよ」パーシヴァルは人差し指にチュッとキスをした。

「でも、兄たちも気づくかもしれません」

「それはそれ。とにかく、ルークがヒナの悪口を伯爵に報告しなきゃいいんだから」

「どうして伯爵はヒナにいろいろ注文を付けるんです?だって、ヒナは伯爵の……伯爵とはどういう関係になるんですか?」パーシヴァルとの関係はわかっても、伯爵とはどういうつながりになるのか、カイルの頭では思い至らなかった。

「それはヒナに聞くといいよ」パーシヴァルはのんびりと言い、ソファにもたれて目を閉じた。

「でも、ヒナは言いたくないかも」そう思うと泣きそうになった。仕方のないことだとわかってはいるけど。

「もしかしたら、ずっと話したかったかもしれないよ」パーシヴァルはカイルの頭を優しく撫で、それからくしゃくしゃにした。「ヒナがごきげんの時を狙ってごらん」

例えば今夜。ジャスティンと束の間の蜜月を過ごした後だ。機嫌が悪いはずがない。

「そうしてみます」カイルは神妙に頷いた。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 369 [ヒナ田舎へ行く]

ヒナのごきげんは続いていた。

そして晩餐に招待された主人を待ち切れずにラドフォード館に押し掛けてきたウェインにめろめろのカイルは、ヒナにあのことを訊ねることをすっかり失念していた。

ひとまずはそれでよかった。うっかりすればヒナと伯爵の関係がルークに洩れてしまうかもしれないから。もちろん、ルークに知られるのがそんなに悪いことだとは思えない。けれども、今はまだ用心に用心を重ねる時だ。

晩餐のあと、食後酒を嗜む大人の男たちは、書斎に集っていた。お酒の飲めないお子様たちは居間に。ちなみに大人チームは、ジャスティンにパーシヴァル、スペンサーにブルーノだ。ルークはヒナに密着中で、ダンやエヴァンは身の程をわきまえているので、大人の会には参加していない。ロシターと入れ替わりのウェインは、カイルに捕まっている。

「ひとつ提案がある」ウォーターズになりきることに苦痛を感じているジャスティンが、切羽詰まった様子で切り出す。

「どんな提案か想像がつくのは僕だけかな?」パーシヴァルは含むように言い、ブルーノが地下から持ってきた伯爵のシャンパンを優雅に口に含んだ。うぅんと至福のうめきを漏らす。

ジャスティンが、お前は黙っていろとパーシヴァルを睨む。

「なんでしょうか?」と問うたのはスペンサーだ。一応、ここでの決定権は彼にある。

「しばらく、ここに滞在したいと思う。もちろん、それ相応の礼はする。使用人も連れてくるし、君たちに迷惑は掛けない」

「やっぱりね」パーシヴァルがこそりと言う。それでもジャスティンは睨んだ。

「それは無理です」スペンサーはにべもない。ブルーノも脇で頷く。傾げたグラスの中身は、パーシヴァルが苦手とするブランデーだ。

「伯爵にはこちらからすぐに使いをやる」嘘か誠か、ジャスティンはそんなことを言う。

「伯爵が万が一にも許可すれば、こちらとしては断る理由はありません。けれど、ヒナと親しいあなたの滞在を伯爵が許すとは思えません」ウォーターズの正体を知るスペンサーが、わかっているでしょうと念を押すようにジャスティンを見る。

「伯爵はウォーターズとヒナが親しいなんて知らないと思うよ」パーシヴァルがさりげなく口添えする。ウォーターズは偽名なので、ヒナとの接点は探してもまず出ない。

「これ以上面倒が増えるのは勘弁してもらいたいんだが」ブルーノが憮然と言う。

「にぎやかになるだろうね」楽しそうなのはパーシヴァルひとり。

「そもそも、ほんの一〇分ほどの場所に住んでいるのにどうしてうちへくる必要が?」ロシターが屋敷に入り込むことを何としても阻止したいブルーノが、声を大にして言う。

「確かに」とスペンサー。とはいえ、おおっぴらに反対する気はない。

「表からだと三〇分は掛かる」ジャスティンは刺々しく言い、グラスを空にした。スペンサーがカラフェを手にしグラスを満たす。

「今日は裏手から来られたようですが」ブルーノが指摘する。

「出入り自由にしてあげれば?」パーシヴァルが助け船を出す。ここで便宜を図っておけば、後々ジェームズに話がいったときに、ご褒美がもらえるかもしれないと期待したからだ。

ジャスティンはパーシヴァルの提案を、受け入れようか突っぱねようか逡巡した。出入りが自由になるだけでも、儲けものだ。だが、それだけでは我慢できない。ジャスティンもヒナも。

あともうひと押し。

どうすれば、ブルーノが首を縦に振るのか、ジャスティンは知恵を絞った。

つづく


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